『Braid』『The Witness』でパズルゲームの定義を塗り替えてきたジョナサン・ブロウ。その彼が10年の歳月を費やした最新作『Order of the Sinking Star』の全貌が明らかになり、業界に激震が走っている。特筆すべきはその規模感だ。総制作費は2700万ドル(約41億8500万円)に達し、古典的な「倉庫番」のメカニクスをベースにしたインディータイトルとしては、これまでの常識を遥かに逸脱したプロジェクトとなっている。














業界の「高コスパ」トレンドに突きつけるアンチテーゼ
2025年のTGA(The Game Awards)を席巻した『Clair Obscur: Expedition 33』は、30名規模のチームと1000万ドル以下の予算でAAA級のビジュアルを実現し、現在のゲーム開発における「最適解」を示した。また、『Balatro』や『Vampire Survivors』のように、最小限のリソースで中毒性を最大化し、短期間でコストを回収するモデルが主流となっている。
しかし、『Order of the Sinking Star』はこのトレンドに真っ向から逆行する。ブロウ氏が目指したのは、極めてシンプルな「箱を押す」という遊びを、オープンワールド、職業別の特殊能力、そして複雑に絡み合うギミックを備えた巨大なシステムへと昇華させること。効率化やトレンドへの阿りなど微塵も感じさせない、純粋な「作家性」の追求がそこにある。
1400ステージ、500時間。AIに頼らぬ「手仕事」の極地
本作のボリュームは、もはや「オーバーデザイン」と呼ぶほかない。すべて手作業で構築されたステージ数は1400を超え、メインストーリーのクリアだけで約250時間、コンプリートには500時間以上を要するという。AIによる自動生成が叫ばれる中で、少人数チームが一マスずつ10年をかけて磨き上げた密度の高さは、近年のゲームシーンでは類を見ない。Steamにおける一般的なクリア率が15~30%にとどまる中、この膨大な情報の海をプレイヤーがどう泳ぎ切るのか、その反応が待たれる。
独自言語「JAI」への執着と2700万ドルの内訳
2700万ドルという巨額の投資の源泉は、技術基盤への異様なこだわりにある。ブロウ氏は既存のC++や市販エンジンに満足せず、2014年から独自のプログラミング言語「JAI」を自ら開発。言語設計からエンジン、ゲーム本体までをゼロから組み上げるという狂信的なアプローチを採った。これにより、読み込み待ちのないシームレスな編集と実行が可能になったが、10年分の研究開発費もすべてこの2700万ドルに含まれている。氏はかつての成功で得た利益のすべてを、この壮大な実験場に注ぎ込んでいるのだ。
15ドルの価格設定、300万本という高いハードル
ビジネスの観点から見れば、このプロジェクトは極めて危ういバランスの上に成り立っている。予定価格はわずか15ドル(約2325円)。プラットフォーム手数料や税金を差し引けば、初期投資の回収だけで300万本以上のセールスが必要となる計算だ。これは2024年の世界的ヒット作『Balatro』の初年度販売数に匹敵する、パズルゲームとしては極めて高いハードルである。
「パズルを解く」という内省的なプロセスは、派手な演出が好まれるSNSや動画配信での拡散が難しいという構造的な弱点も抱えている。ブロウ氏は本作でパブリッシャーのArc Gamesと初のタッグを組んだが、この「作家主義」の極致が市場にどう受け入れられるのか。その答えが出る日は、もうすぐそこまで来ている。
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